コロナ禍で行われた東京オリンピック。公式記録映画の監督はどう見たのでしょうか。河瀬直美監督に聞きました。
(Q.間近で五輪を見ていていかがでしたか?)
平均睡眠3時間で2週間を乗り切りました。
すごくアドレナリンが出ているというか、アスリートの皆さんをはじめ、ボランティアの方など、色んな人たちのすごい愛情を見ていると、自分自身のなかで沸き立つものもあった2週間でした。
(Q.コロナ禍でもあり、色んな見方があるオリンピックでしたね?)
本当に“光と影”です。光の部分だけを描くものではなく、影を描くことも試されていると思います。
私はフィクションも撮っていますので、やっぱり最初に影の部分があって、問題提起をして、それをどう解決していくのかというところにストーリーの面白さというか、観ていく人たちの欲求はあるものだと思っています。
(Q.どういったところに光と影がありましたか?)
やはり分断です。
約8割がオリンピック開催に反対している、望まれていないものをどうしてやるんだと、デモの方たちもたくさん出ていました。
自分たちの置かれている現実、新型コロナの感染者数が増えている状況のなかで、不安が不満になる。政府への不満。それもオリンピックがとても目立っているからこそ、そっちに全部不満が来るような意味でなされるなかで、それでもやろうとする人たちがいる。
そして、場を用意してくれたことに、感謝の言葉を述べたアスリートの声。選手たちが全人生をかけている姿には、皆さん本当に心を動かされたと思います。それこそが光だったと思います。
私は泣きながら撮っていました。やっぱり魂が震えるんです。
(Q.これまでに数多くの記録映画があると思いますが、河瀬監督ならではの部分はどこですか?)
公式映画は冬季も合わせると100本くらいありますが、女性監督は5人くらいしかいません。
結婚・出産はアスリートにとって『悪魔のキス』と言われています。
出産は、自分の肉体をアスリートとして鍛えている時間をいったん中断しなければならず、キャリアを伸ばせない。それはアスリートだけではなく、恐らく仕事をしている私たち女性にも言えることです。
それを『悪魔のキス』と言ってしまうアスリート業界で、出産してもなお、金メダルを取った女性アスリートがいます。
私は事前からずっと取材をしていて、そういう部分にも光を当てています。
女子1500メートルで金メダルを獲得したフェイス・キピエゴン選手や、アーティスティックスイミング金メダルのスベトラーナ・ロマーシナ選手。こういう人たちは本当に圧巻でした。
(Q.撮影はデジタルカメラではなく、フィルムですか?)
16ミリのスクーピックというものです。
自分で久しぶりにフィルム装てんもして、撮影をしました。
自分自身の記憶をもう一度、再体験という、それこそ追撮をやりました。
フィルムはやっぱり、モチベーションが全然違いますね。
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